<質問>
40ページの右の6行目から9行目にかけて,「シュレーディンガー方程式の計算には必然的に虚数や複素数が含まれる」「量子力学は,現代の科学技術や工学の土台である」とありますが,自然界には有り得ないような虚数が実際の世界と関わりをもつことができたのは,全く偶然の出来事なのでしょうか?
東京都北区,H.S.さん
10月23日質問受付
<回答>
私たちは,「i個のリンゴ」や「iキログラムの金塊」を目にすることはありません。虚数は,「物の個数」や「量」に対応させることができない数です。したがって,「実在する世界」を記述する物理学に,虚数が登場することは,不思議なことに思えます。
 しかし,「マイナスの数」も事情は似ています。私たちは「マイナス3個のリンゴ」や「マイナス3キログラムの金塊」を目にすることはありません。虚数だけでなく,マイナスの数も,物の個数や量に対応させることができない数です。そんなマイナスの数は,もちろん物理学にとって必要です。プラスの数だけしか認めないような,窮屈な数学では,物理学はうまくいかないからです。
 無をあらわす数「0」も同様です。「0個のリンゴ」は,自然界に存在するとはいえません。しかし,0を認めない数学は,自然界を記述するにはあまり役立ちません。
 結局,「数」というものはすべて,自然界にそのまま実在するものではなく,自然界を記述するために人間が頭の中につくった「モデル」あるいは「概念」だといえるでしょう。その意味で,数は一種の「言語」であるといえます。そして,物理学とは,「自然界にあらわれる法則を,数学という言語を使って描写する営みである」ということができます。
 20世紀に入り,人類は,複素数という言語によって,より自然に,かつ簡潔に描写できる自然界のルールに出会いました。それが,ミクロの世界を支配する量子力学です。こう考えると,虚数と実際の世界との関わりが,偶然ではなく,必然だったと思えてくるのではないでしょうか。
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